2013年11月16日土曜日

財政出動論24C 消費増税に関する8つの問題と誤解

改訂経過:26.5.31 問題3のグラフの説明(図中の矢印の説明:【図の①〜③】の部分)を大幅修正(調査時点と回答の対象範囲・期間の認識にずれがあった点を修正=若干不可解に感じていた点が氷解)。26.1.16 日常生活用品等について記述を(問題1の中で)追加。 25.12.2 アジア通貨危機、国内金融危機の影響が見られない根拠をもう一つ追加しました。25.11.21 新規借入金関係等に説明追加+家計の負担能力に関してグラフを1つ追加。25.11.19①問題と誤解を7つから8つに追加。②全体に構成を変更。③自動車への影響に関して一段落分追加25.11.17 問題と誤解を6つから7つに

財政出動論24(←消費税増税の影響)財政出動論24B( ←97年消費増税の影響を家電で見る )をベースに、消費税増税に関わる問題を8つに整理しました。各問題の詳細は、財政出動論24,同24Bを参照ください。→その他参考:『日本国債のパラドックスと財政出動の経済学
《8つの問題8つの誤解の目次》
問題1 増税の影響は、住宅投資、自動車、家電などの耐久消費財にしわよせされる。
    誤解1:消費税の影響はすべての品目に等しく同時に現れる=誤り
問題2 消費税増税の影響は、可処分所得の恒久的縮小のため恒久的に続く。
誤解2:消費税増税の影響は増税前の駈込需要と増税後の反動減だけ=誤り
問題3 家計の余力増税の影響を左右する。一時的には預金が消費に使われる
誤解3家計が可処分所得減少に耐える力は、89年や97年と変わらない=誤り
問題4 97年以降の橋本不況の主要な原因は97年の消費税増税である
誤解4:落ち込みの原因は、アジア通貨危機や国内金融危機が原因誤り
問題5 消費税増税単独の影響だけでなく、財政政策の変化全体が総合的に影響する。
誤解5増税の影響だけが注目されている=誤り、政府歳出も考慮すべき
問題6 下請け企業等が発注元企業に消費税を転嫁することは、必ずしも容易ではない
誤解6:消費税は、家計消費だけの問題である。=誤り
問題7 駈込需要による成長を見て、経済が消費税増税に耐えうると判断するなんて
誤解7:公共投資や駈込み需要でも成長は成長であり経済は消費税に耐えうる=誤り
問題8 消費税は、成長のエンジンである耐久財需要を抑制し長期の成長力を低める。
誤解8:消費税は経済成長に中立である。=誤り


問題1 増税の影響は、住宅投資、自動車、家電などの耐久消費財にしわよせされる。
    誤解1:消費税の影響はすべての品目に等しく同時に現れる=誤り

    日常生活用品など経常的な消費の影響が比較的強い家計調査が計測する「消費」がそれほど減少しなかった一方で、住宅投資や、自動車、家電など非日常的消費(投資)が大きく落ち込んだことは、国内の需要を示すつぎの3つのグラフをみれば明らかだ(いずれも《輸出分を含んだ》国内生産額ではない点に注意。もっとも、住宅投資は輸出とは無関係なので生産額と一致)
    そもそも、経済危機時に、非耐久財の需要が余り低下せず、耐久財の需要が大きく減少することは広く観察されていることだ(例えば、大恐慌やリーマンショック時の米国)。
注)1つめと2つめのグラフの説明は財政出動論24(←消費税増税の影響)、
 3つめのグラフの説明は財政出動論24B( ←97年消費増税の影響を家電
 で見るのそれぞれ各グラフ(サイズも大きい)の前後の説明参照

◎ 増税の影響は、専ら住宅投資、自動車、家電などの耐久財消費に集中して現れる
  消費税増税によって、住宅投資や、自動車、家電などの耐久消費財の消費が縮小するのは、単にそれに対する消費税額が増えたからだけではない
日常生活用品、あるいは最寄品といわれる食品や消耗品などの消費は必須性が高く、それほど圧縮できないため、それらが圧縮できなかった分のしわよせが、耐用年数の長い住宅や耐久財に集中して現れるのだ。耐用年数が長いから、買い換えを遅らせても、家計の効用(満足)はそれほど変わらないからだ。すなわち、これらの品目の消費等の減少は、それそのものの消費税額増加だけの結果ではない。

◎ 一方、日常生活用品その他の消耗品消費への恒久的な影響はほとんどない
恒久的な影響は、住宅投資、自動車などの耐久財に集中して現れるのであって、日常生活のための消費財への影響は、一時的なものに限られると考えられる。耐久財消費は消費全体の6%余りにすぎない《住宅投資はこれとは別枠》から、多くの企業が消費税の影響を心配していないのは理解できる。

◎ 住宅や自動車自体の消費税額だけを補填するような対策では、影響は排除できない
・・・したがって、これらの消費税増税の影響を軽減するために、住宅や自動車などに消費税分の減税を行ったり、交付金や助成金を交付しても、消費税の影響は極めて不十分にしか解消されない。

◎ 97年当時、実は自動車の国内生産額は減ってはいない」。輸出があったからだ。
97年の増税では、国内販売は減ったが、輸出があったため国内生産は減らなかった。しかし、今回は17年前とは違う。各メーカー毎の世界戦略で違いはあるだろうが、国内生産と国内販売の結びつきは、当時よりも深まっているのではないだろうか。もし、仮にそうだとすれば、消費税増税による国内販売への影響は、そのまま国内生産の減少に直結するのではないだろうか。・・・・・・??


問題2 消費税増税の影響は、可処分所得の恒久的縮小のため恒久的に続く。
誤解2:消費税増税の影響は増税前の駈込需要と増税後の反動減だけ=誤り

 民間シンクタンクやマスコミは、もっぱら消費税導入前後の駈け込みによる需要増とその反動減に注目しているが、財政出動論24(←消費税増税の影響)で指摘したように、むしろ恒久的なマイナス効果(可処分所得減少)の影響(所得効果 )が大きい
これは、日本銀行の宮尾審議委員も、最近の講演(2013年11月13日の松本市→ブルームバーグ)で、消費税率引き上げは「家計の実質可処分所得にマイナスの影響を及ぼす」と指摘している。消費税は恒久的に賦課されるのだから、可処分所得は増税以後、継続的に増税分だけ(恒久的に)低くなる。
これは、上の3つのグラフを見れば明らかだろう。もちろん、可処分所得を増加させるような変化があれば、これは解消される。例えば、①輸出増加などによる生産の拡大に伴う賃金の上昇政府支出の拡大による生産拡大に伴う賃金の上昇、③バブルによる資産効果による家計収入の増加などである。
このうち、①の例は、小泉政権期の円安による輸出増加があり、もう少しで賃金の持続的上昇に結びつくところだった。しかし、当時は景気の上昇に応じて、小泉政権は、それを相殺するように財政再建のため政府支出を圧縮し続けたため、十分な賃金上昇までいかないうちにリーマン・ショックにぶつかりご破算となった。
②の例は、現在の公共投資拡大で、建設分野で実際に賃金の上昇が生じている。しかし、公共投資の拡大は財政赤字の拡大につながるため、持続性がないとみなされており、したがって、建設分野への労働移動は生じていない。③の例は、バブル期にあった。
このほかに、④政府が企業に賃上げを働きかけるといった方策もあるようだが、実効性があるかどうかは不明である。また、⑤企業が設備投資を拡大して、景気が拡大し、それが賃金上昇につながることを期待して、法人税減税や設備投資減税をすべしとの主張もある。しかし、消費需要が停滞したままで、企業が設備投資する合理的理由はない。そもそも、消費需要は家計の所得に依存し、その家計の所得は企業の賃上げに依存する。ニワトリか卵かという古くからの問題であり、やはりトリガーとして、一定期間の①〜③などが必要と考えられる。


問題3 家計の余力増税の影響を左右する。一時的には預金が消費に使われる
誤解3家計が可処分所得減少に耐える力は、89年や97年と変わらない=誤り

① (一時的には)増税による可処分所得の減少は、一部借入金増加で補われた。
「借入金」とは「負の預金」である。次のグラフは、97年の消費税増税をはさむ家計の新規借入額の推移を示している。
注)なお、調査時点が6〜7月頃であることを踏まえて、以下の記述を修正し
ました(26.5.31)
【図の①】・・・96年には、消費税増税に向けた一部駆け込み需要(特に住宅)により新規借入が増加したと考えられる。
この借入金分や、この96年の調査以後、駆け込み需要が97年4月の増税直前まで増加した(その影響は、97年の調査結果(図の②)に現れている)。平年であれば貯蓄するはずだった可処分所得の一部と借入金が駈け込み需要に使われたから、消費つまり需要はトータルで増加して経済は好調だった。これは14年増税を控えた今年と同じ状況である。
【図の②】・・・増税前の96年度中の駆け込み需要の影響は、97年の回答に反映されている。この結果、消費税増税直前の駆け込み需要のための資金確保のために借入金が増加している。さらに増税後(この調査までの4〜6月の間)は消費税増税で可処分所得が減少して住宅や自動車購入の余力が低下し、購入を諦めた家計もあったが、諦めきれない家計や増税の影響を軽く見た家計借入金を増やして購入した家計もあったと考えられる。この結果駈け込み前の95年に比較すると新規借入金は4割増加
【図の③】・・・ 増税で、可処分所得が減少し、それで減った分を借入金の増額で補った家計と、可処分所得の減少に応じて住宅や耐久財消費を減らした2種類の家計があった。両者を合計すると、トータルでは後者が多く、上の3つのグラフのように、住宅投資や耐久財消費が減少した。
しかし、増税後1年の経験を経て、すべての家計は増税による可処分所得の減少を明確に把握し、それに合わせて支出を抑制するとともに、借入金の毎年の返済額を妥当な水準に抑えるために、借入額自体を抑制し、総支出の適正化を図った以後、それが維持された。この結果、新規借入は減少。
97年に借入を増やした家計は、98年以降返済額が増加したから、新たな他の用途(住宅投資や耐久財を購入)のための借り入れ能力は低下したまた、増えた元利償還の支払いが消費に使える可処分所得を圧迫したから、その意味でも消費は抑制された。97年に借入をしなかった家計は引き続き可処分所得の低下に合わせた低い水準の住宅投資や耐久財消費を維持した。

②  家計の負担能力は、今回も暗黙のうちに89,97年と同じだと考えられている。
たしかに、可処分所得が低下しても「家計所得に余力があれば、貯蓄取崩しや、新たな貯蓄の抑制、また返済の自信があれば借入金の増加などで消費を維持できる実際、上のグラフで見たように97年には一部借入金の増加、また預金の取り崩しや新たな預金の抑制が見られた。
・ しかし、次のグラフに見るように、今回は当時よりも家計が窮迫し、余力が半減している。したがって、前回、前々回とは異なって、借入による対応を家計に求めることは難しいのではないだろうか。

注)このグラフの説明は、財政出動論24B( ←97年消費増税の影響を
 家電で見る )の2つ目のグラフ(このグラフと同じもの)の前後の説明
参照。

・ こうした家計の余力の低下は、金融資産を保有していない「金融資産非保有世帯」の割合が、2007年の20.6%から、わずか6年後の今年2013年の調査では31.0%へと大きく増加していることでも裏付けられる(データは、上の①のグラフのデータと同じく、日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会が実施した「家計の金融行動に関する世論調査」)
こうした金融資産非保有世帯増加の背景には、非正規雇用の趨勢的増加とリーマンショック後の停滞があると考えられる。

注)近似曲線(及び近似式)は参考程度。2006年以前と2007年
以後では、調査の設問に若干異同があるが、とりあえず、この金融資
 産非保有世帯の割合には影響ないと考えられるため、単純に接続した。

問題4 97年以降の橋本不況の主要な原因は97年の消費税増税である
誤解4:落ち込みの原因は、アジア通貨危機や国内金融危機が原因誤り

① 四半期実質GDP統計の推移から
第一に四半期季節調整済み実質GDP統計で住宅投資の変化をみると、97年4〜6月期が前期比11.2%減、7〜9月期7.2%減、10〜12月期4.7%減、98年1〜3月期が0.6%減と、消費税増税直後が最も縮小幅が大きく、以後順に縮小幅が小さくなっており、97年7月発生のアジア通貨危機」や97年11月に発生した「国内金融危機」の影響は見えない。したがって、住宅市場の巨額の縮小は、国内金融危機の影響とは考えられない。
・・・消費を全体としてみると、7〜9月期には持ち直しの傾向が見られたと言われているが、増税の影響が集中的に現れると考えられる住宅投資については、そうした持ち直しの傾向は全く見えなかった)。(財政出動論24参照

② 貸し渋りの影響のないはずの家電製品の国内需要の落ち込みから
    第三に家電製品は、価格帯としては、数千円〜数十万円程度で、自動車に比べて10分の1程度である。したがって、これらを購入するために、わざわざ審査を受けて金融機関から融資を受ける家計はわずかだろう。カードでの購入は少なくないだろうが、この場合は、普通は購入1件毎に一々審査を受けることはない。
    つまり、このページの上から3番目のグラフ(財政出動論24Bの一番上のグラフ)で見た家電製品需要の落ち込みには、アジア通貨危機や国内金融危機等に伴う銀行融資の縮小や貸し渋りなどの影響はまったくない。家電製品購入の落ち込みは、それとは別の原因による(消費者自身の判断による)ものだ。(財政出動論24Bから)

③ 貸し渋りの影響について日銀の貸出態度DIの推移から
    第二に当時の日銀の貸出態度DI(これ自体は企業に対する融資態度に関するものではあるが)をみると、それが急落を始めたのは97年の第4四半期からであり、98年第1四半期にほぼボトムに達している。これを上記の住宅投資の変化と比較すると明らかに、住宅投資の変化に半年以上遅れて、貸出態度DIの急低下が発生している。消費税導入が97年4月、その後GDPの低下が97年前半中心、貸出態度DIの急落が97年末から98年初であり、前後関係がまったく逆である。
    貸出態度DIは、98年第1四半期から1年強低い状態が続いたが、99年半ばには急回復している。ところが、その後も住宅投資は回復していない。しかも、当時、企業部門は資金余剰状態(「財政出動論7 財政赤字・政府累積債務の持続可能性」の中段の図10を見れば、まさに98年に企業部門(非金融法人企業)が、資金不足部門から余剰部門に劇的に!転換していることがわかるだろう)にあり、当時の金融機関は貸出先の確保に窮していたから、金融機関が、企業の設備投資よりもどちらかと言えば融資の安全性の高い住宅融資を絞り続けたとは考えにくい。
    加えて、01年3月からは量的緩和政策が導入されたから、住宅融資はさらに潤沢になったはずだが、グラフで見るとむしろ住宅投資は01年から低下している。
    金融が緩和されても、需要の増加する見通しがないなら企業は設備投資を行わないが、家計の住宅投資は、自らの満足のために行われるので、設備投資のように市場の需要が低くて採算が取れるかどうかを心配することはない。だから、住宅投資は、設備投資よりもはるかに金融環境の変化に素直に反応するはずである。ところがそれが見られない。したがって、住宅投資の減少は、金融環境悪化が原因ではなく、消費増税による家計の可処分所得の縮小(のしわよせ)を反映していると考えるのが自然だ。財政出動論24参照

④ 消費者マインドについて、家電の月次の需要落ち込みの他のショック時との比較から
    第四に家計が、不景気を肌で感じ、将来に備えて消費を節約したということは、もちろん、あり得ることではある。消費マインドの低下というわけだ。
    これを、家電の国内需要をこのページの上から3つ目のグラフ(財政出動論24Bの一番上のグラフ)見てみよう。97年以降の落ち込みと90年代初頭のバブル崩壊時の落ち込みは同レベルである。とすると、消費マインド原因説では、この二つは同レベルのマインド低下をもたらしたと考えるべきことになる。しかし、これら通貨・金融危機がバブル崩壊と同レベルの影響を家計の消費マインドに与えたとはとても思えない。バブル崩壊による地価や美術品等の価格低下は家計を直撃したが、通貨危機や金融危機は家計との関係は小さかったはずだからだ。
    このことは、生産の急減・雇用の急減で、国内金融危機やアジア通貨危機以上に消費者心理に大きな影響を与えたはずのリーマンショック」が家電の消費に与えた影響が極めて軽微であることをみても明らかだろう財政出動論24Bの一番上のグラフ参照)

⑤ 家電「生産」の月次推移でみる家計行動企業の行動の時間的前後関係から
   第五に月次のデータが得られる民生用電機の生産状況を、財政出動論24Bの一番下のグラフで見てみよう。97年の毎月の生産動向を見ると、生産はほぼ一直線に低下している。したがってアジア通貨危機原因説、国内金融危機原因説(つまり「消費増税後、消費は一旦回復したが、その後の7月のアジア通貨危機や11月の国内金融危機が原因で消費が落ち込んだのだ」という説)は成立しないように思える
    また、グラフでは、「電気機械工業全体民生用電機も含む)の生産指数の変動も示したが、これには生産の低下が見られない。これは、電気機械工業全体では、産業用機器のウエイトが極めて高いからだ(7割以上)。つまり、この時点では、設備投資などの産業用需要はアジア通貨危機や国内金融危機の影響をほぼ受けていないのである。設備投資が急減したのは98年に入ってからである。
    そもそも、企業より家計が先に、通貨危機や金融危機などの将来の影響を予想して行動を変化させるということはあり得ないことだ。通常なら、7月のアジア通貨危機や11月の国内金融危機などのショックの影響は、まず企業が認識して、それが企業の設備投資や雇用削減を引き起こし、それが雇用不安を通じて家計消費に波及したはずである。ところが現実は、この順序とは全く逆にまず消費が縮小し、ついで企業の設備投資が縮小していったのである。アジア通貨危機、国内金融危機原因説は、これを説明できない。(財政出動論24Bから)

⑥ 家計の新規借入金の推移から
第六に97年当時の消費縮小の原因としてのアジア通貨危機説、国内金融危機影響説の立場からは、家計の新規借入金に関する2つ上のグラフの③は、それらの危機の影響と見られるかもしれない。しかし、③以降の99〜01年の新規借入の水準は、増税前の93〜95年の水準を上回っているのだから、③以降の99〜01年の借入額の水準自体が低いとは言えない。借入額は元の水準に戻っただけである(むしろ、若干高い)。つまり、借入額がこれらの危機によって大きな影響を受けたという解釈は難しい。

⑦ 設備投資にアジア通貨危機と国内金融危機がほとんど影響していないことから
このことは、ブログ「経済をよくするって、どうすれば」先生の「設備投資予測その後に付けたコメントの(下段の)2の(3)で述べたとおりである。
    すなわち、当時の設備投資の変動は、『輸出』『公共投資』『民間住宅投資』の3つの要因のみでほぼパーフェクトに説明できるため、これら2つの危機の影響は検出することができないと考える。
    仮に、2つの危機によって金融機関の貸し渋りや、危機の影響による企業の設備投資マインドの低下があったとするなら、それは輸出、住宅投資、公共事業規模の変動から予測される「重回帰予測値」以上の落ち込みが示されるはずだが、そうした変化は一切見られない。それどころか、上記「経済を良くするって」へのコメントでも述べたように、97年10−12月期〜98年1—3月期は、それを上回ってすらいる(つまりまったく逆)。


問題5 消費税増税単独の影響だけでなく、財政政策の変化全体が総合的に影響する。
誤解5増税の影響だけが注目されている=誤り、政府歳出も考慮すべき

増税が単独で景気を左右するわけではない。消費税増税は、民間家計の可処分所得を吸収し引き下げることで需要にマイナスの影響を与えるしかし、経済が力強く成長していれば、増税による可処分所得への負の影響は、賃金の上昇で埋められる。また、政支出が増加すれば、それに伴う政府需要増(政府消費や投資の増加)によって、家計の消費等の減少を埋めることも出来る

したがって、消費税増税による家計の可処分所得の吸収の影響だけでなく、財政支出の変動の影響を加えて影響を評価すべきである。・・・財政出動論24(←消費税増税の影響)の末尾近くの89年と97年の比較部分参照
(概要)
89年の消費税3%導入時は、消費増税の規模に対して減税(消費税以外
で、物品税の廃止や所得税減税が行われた)の規模がそれなりに大きく、民間
需要の縮小は小さかった。一方で、政府歳出増が大きかったため政府需要は増
加した。
 つまり、政府の政策はトータルで需要を増加させた。・・・したがって、消費税
導入の影響は感じられなかった。

◎ 一方、97年の消費税2%増税時は、消費増税だけでなく特別減税の終了
社会保険料や医療費負担の引き上げなどで家計負担が9兆円増えたために民
需要が縮小した。一方で、政府歳出が削減されたから政府需要も縮小した。
したがって、政府の政策はトータルで10兆円程度需要を減少させたから、
それは当然、経済全体に大きな負の影響を与えた。

今回の増税は、当初の社会保障財源論などはすっとばして、財政破綻対策を真っ正面に掲げての消費税増税だから、当然、財政再建を目指した97年型になるだろう。しかも、増税の規模は、97年の1.5倍である。


問題6 下請け企業等が発注元企業に消費税を転嫁することは、必ずしも容易ではない
誤解6:消費税は、家計消費だけの問題である。=誤り

消費税というと家計消費への影響のみが注目されているが、下請け企業などの発注元企業への「転嫁は、特に現在のような不況下では困難なケースが多くなるだろう。

これは、好況だった89年の消費税導入時との大きな違いである。→企業倒産、自殺者の増加(97年について=シェイブティル日記 参照)→それは景気を悪化させる。
97年はまだ直前には、阪神淡路大震災復興事業等景気は上昇中であり、物価も上昇していた。今回はどうだろうか。


問題7 駈込需要による成長を見て、経済が消費税増税に耐えうると判断するなんて
誤解7:公共投資や駈込み需要でも成長は成長であり経済は消費税に耐えうる=誤り

駈け込み需要公共投資で維持された成長は、実力ではない。人為的に作り出された弱いものだ。消費増税のショックに耐えられるかどうかは、それを除いた民間消費と設備投資の状況だけを見て判断すべきだろう

民間消費と設備投資が弱いまま増税すれば、その影響で、結局大規模な財政出動に追い込まれるだけである。
駈け込み需要や政府歳出の補正(公共事業)による好景気で民間の負担力を判断するなんて、頭の中が混乱してる。それは、ある意味のマッチポンプ。


問題8 消費税は、成長のエンジンである耐久財需要を抑制し長期の成長力を低める。
誤解8:消費税は経済成長に中立である。=誤り

問題1で見たように、消費税増税の影響は、住宅や自動車などの特に高額の耐久消費財に選択的、集中的に現れる

    所得が伸びない中、増税で可処分所得が減ると、生活必需消費が優先され、住宅や自動車などの高額耐久消費財に消費のしわ寄せが集中的に生じ、これらの消費額(投資額)が恒久的に大きく減少する

    これらの耐久財分野は、日本経済を支える高付加価値分野であり、成長のエンジンである。成長への影響が心配される。
    なお、現代経済学は、イノベーションの原因として、サプライサイドの要因しか考えない(新古典派成長理論、内生的成長論)。しかし、市場の豊かさがイノベーションを左右することについては、拙著『重不況の経済学』第5章でふれている。

    参考までに、その冒頭部分を上げておこう。
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◎ 豊かで細分化された先進国市場がなければイノベーションは生まれない
    開発途上国の消費者は、全般的に所得が低いために、低価格製品を購入せざるを得ない。したがって、消費者は、個々の嗜好、好みや必要を抑え、量産によって低価格化された標準品で我慢せざるをえない。このため、開発途上国の市場は、量産品主体のマス市場が中心となる。
これに対して先進国では、平均所得が高いために消費者の多様なニーズが顕在化し、多様な価値観や嗜好に対応する、膨大な数の、細分化されたニッチ的製品市場が成立している。開発途上国の少数の富裕層が、自らの嗜好に合う製品を求めて先進国へ出かけるのはこのためである。

この点で先進国と開発途上国の市場の構造は全く異なる。先進国市場は単に豊かであるだけでなく、多様なニーズが顕在化している市場だから、開発者はそのニーズに応える多様な製品の着想が得られるし、新たに開発する製品の市場規模を見積もることもできる。多様な特殊なニーズが顕在化している市場があるからこそ、それに対応した新製品が生まれ得るのである。

また、まったく新しい新製品で、従来にないものであるために使い方もよくわからない、設計も機能も十分に洗練されず、しかも高額な製品であっても、先進国市場には買い手がいて市場が成立する。そうした市場がなければ、新製品開発のハードルは極めて高くなり新たに生まれる新製品の多様性も圧倒的に小さくなる。こうした市場なしにイノベーションは生まれないし、世界の市場を豊かにする多様な製品のバリエーションも生まれない。多様な需要が顕在化している先進国の豊かな市場は、イノベーションに不可欠のゆりかごであり、センターなのである。そうした市場が成立するための必須条件は、「国民が豊かなこと」である。国民が豊かとは、その国が高賃金、高コストの国であることだ。

これに対して、経済学は、(基本的に)供給を重視し、需要側の影響を考えないから、製品イノベーションは、必要な開発人材さえいて、必要な研究開発投資さえ行われれば、どんな国でも行えると考える。しかし、仮に先進工業国が低コスト国になれば、平均所得が低下して、多様な製品や高価格の新製品を購入できる消費者市場が消滅するため、その国はイノベーションを育む能力を失ってしまう。そうなれば、世界はイノベーションの牽引力を失うことになる。

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